はじめてのNY⑮ 'S wonderful、 そのひとの名は

・2013.4.30(Tue),19:00(GMT-4)
 Imperial Theatre on Broadway ※ネタバレがあります(公演は終了しました)。


 1992年秋。僕がまだ学生のころ、午前1時ごろの毎日放送テレビのインフォメーション番組で、同局が胴元になっていた劇団四季のミュージカルCRAZY FOR YOUの宣伝と、「今日のプレゼント」なんてのをこの局らしいほんわかした雰囲気で告知していた。で、フラフラと応募したら当選。賞品のCDとトレーナーが送られてきた。



 このCDを聴いて、一気に落ちた。
 それまでミュージカルなんか観たことがなかったのだが、どうしてもこれが観たくなった。
 実現するのは4年後。大阪での常打ち公演は終わっていて、巡業公演しかなかったので和歌山まで遠路出かけて行って。Pollyの保坂知寿(この方今でも現役って聞いた)、Bobbyの加藤敬二、ダンスが恰好良かった。
 でも、賞品のCDはbroadway版なので当然英語で、このライナーノーツなんかも参考にしながらCDを擦り切れるほど聴いてたら、どうしても英語で聴きたくて。
 この作品はタップダンスが多用されてて、そのチャカチャカチャカチャカ・チャッチャッチャッというリズム感が最大の魅力。だから、劇団四季が日本語に翻訳してしまうのを全否定はしないけど、どうしても言ってることが変質してしまうのが残念だし、この作品に限っては、リズムに乗っかる音楽には、やっぱり英語の、縦に切り刻んでいくような舌ざわりが乗っていてほしい。

 作詞のIra Gershwinは弟のGeorgeと違って長命したので、歌詞の著作権がまだ残っているはず。だから歌詞を全部乗せることは控えるが(部分的やったらエエんかと言う話はあるけど)、例えば"Stiff upper lip"の最後のくだり、
  Stiff upper lip!, stout fella,
  When you're in a stew,
  sober or blotto,
  this is our motto,
  keep right on muddling through!
  Chin up!
 いきなり英語が分かったわけではないので、確かに訳詩は読んだ。CDについた浜田吾愛さんの訳詩では:
  頑固な上唇、頑丈な連中
  煮詰まっちゃっても
  「しらふか、へべれけか」
  それがモットー
  泥だらけで、さあ進もう
  元気を出して!
とライナーノーツにはある。これが劇団四季版だとこうなってしまう。
  頑張れ みんな
  (一行歌詞不明)
  いつまでも
  どこまでも
  切り抜けてゆこう
  行け!
 これでは、楽しさが半減というより、そもそも内容が変えられてるやんか。
 言葉が幼い、という事が言いたい事の全てではなくて、例えば浜田吾愛さんのほぼ直訳を音楽に乗せようとしても、日本語だと舌が回らなくて乗らないんやと思う。例えば、"CRAZY"には、Badnewsgoawaycall'roundsomedayinMarchorMaywhocaresabouthissharesthatfalldownstairswhocareswhocareswhocareswhocareshecan'tbebotheredwon'tbebotherdshan'tbebotherdcan'tbebotherdnow!という歌詞の全てを僅か8秒で歌い切るくだりがある。
 第一、初めて聴く日本語の歌詞では、保坂知寿に歌われても客席で一緒に口が動かせへんやんか。
 矛盾をはらんだわがままを言うようやけど、こういう恋愛賛歌みたいな作品については、「別世界に連れて行って」欲しいねん。申し訳ないけど、これでは別世界に連れて行ってくれへんやんか。
 「オリジナルが日本語」の作品には日本語のええとこがあるで。そういうのは桂枝雀に任せたらええやんか。
 だから、和歌山で観た時のことは今でも印象深いには違いないんやけど、いつかは、このガーシュウィンの作品を英語で聴く(&こそっと歌う)機会がないか…と、ボンヤリ考えていた。



                ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 それから17年。
 今回初めてニューヨークに旅行するにあたって、当初はミュージカル鑑賞の予定はなかった。
 「地球の歩き方・ニューヨーク2012-2013」は少し情報が古くて、興味をそそる(どうしても観たいという意味で)舞台が無かった。「アン」「アニー」「ティファニーで朝食を」「ジキル&ハイド」「マクベス」「マンマ・ミーア」「マチルダ」「ワンス」「スパイダーマン」「ライオンキング」「オペラ座の怪人」・・・。だから、現地に行ってからブロードウェイの雰囲気だけは見て、気が向いたら当日券でも買おうと思い、1992年に"CRAZY FOR YOU"が上演されたシューベルトシアター
  

の表玄関だけでも見て、帰ろうと思っていた。
 ところが。
 3月に入って、暇つぶしぐらいの気持ちで、もう一冊「トラベルデイズ」(昭文社)というガイド本を買って寝ころびながら眺めていた。ミュージカルのページに、下の文字を見つけた。
 "ナイス・ワーク・イフ・ユー・キャン・ゲット・イット"(確かカタカナで記してあった)
 「なんやこれ!!」一遍に目が覚めた。"Nice Work if you can get it"は、"CRAZY FOR YOU"のCDで、あほほど聴いた曲である。ガーシュウィンやないかこれは!

 ふへーっ。一杯食った。

 「地球の歩き方」は初めて海外に行く時からお世話になっていて、今回も「ニューヨーク編」を読んでいたし、NY loves youなんてインターネット情報掲示板なども見ていたが、結果的に言えば、こっちを読まなかったら、この邂逅はおそらくなかった。
 あわてて、インターネットでこのミュージカルのことを検索した。どうも"CRAZY…"のリプリントのようなミュージカルが今まさにgoingであることが判った。
 筋については、アメリカでの話によく出てくる、「結婚前夜、新郎が独身最後の夜を友人連中とドンチャン騒ぎして過ごし、明日お前大丈夫か?」という類のものであることが分かった。
 そして問題は曲のセレクト。"CRAZY FOR YOU"ナンバー以外も含め、知っている曲が6曲あることが分かった。
  ( / )の左・右に書いてあるネームは、左が"CRAZY"のCD、右が和歌山の会場で購入した"Crazy for Gershwin"というCDで歌っている歌手である。このCDは掘り出し物だった。
 ・Nice work if you can get it (Harry Groener/Jeri Southern)
 ・Someone to watch over me (Jodi Benson/Chet Baker)
 ・'S wonderful (-/Julie London)
 ・Fascinatin' Rhythm (-/Vic Damone)
 ・But not for me (Jodi Benson/Chet Baker)
 ・Do do do (-/Mel Torme)
    ←曲と歌手のマッチングが絶妙。オススメ

 逆に言うと、残り11曲は聴いたことがなかった。だから、「僕はガーシュウィンが好きです」と言っても、その程度でしかない。Ira & George Gershwin のサイトを見ていると、大体100曲が紹介されている。Georgeの夭折が惜しまれてならない。
 でも、6曲あれば十分過ぎる。かくして、4月30日の夜、インペリアル劇場の客となり、とにかく興奮した。
 前から4列目下手寄り通路脇(この下手というのが最後に望外の興奮をもたらすのだが)の席で、声だけは出さずに、でもまるでカンパニーと合唱団のステージの隣で歌っているように、僕の口と身体は動いていた。
 台詞は分からない(客席が爆笑しているポイントが分からない)。
 筋も分かってたようで、実はよく分からない。事前の調査から、どう考えてもシリアスなエンドになることはあり得ないということだけが推測できていたのだけど、それ以上のことは、例えば、エンディングで4組ぐらいのカップルができるのやけど、なんでこいつとこいつが?ということは、舞台を見ても実は????だった。
 冷たい目で見たら、"NICE WORK…"より"CRAZY FOR YOU"の方が、ダンス・脚本・編曲も含めて音楽の作り方、ついでに言うと大方のキャスト、どの点からみてもsuperiorであり、"NICE WORK…"は"CRAZY…"のリプリントでしかない。「婚約者でない人と結ばれる」(多分)ところまで、おんなじである。劇評家フランク・リッチが1992年2月20日のNew York Times(ログイン必要)で「もし後世の史家が、ブロードウェイのイギリス勢(「キャッツ」「レ・ミゼラブル」「オペラ座の怪人」等)に対する反撃開始の日を特定するとしたら、それはまさに昨日(開演初日)という事になるだろう」と記したまでの迫力は、このミュージカル「全体を観れば」無い。
Review/Theater: Crazy for You; A Fresh Chorus of Gershwin on Broadway
By FRANK RICH
Published: February 20, 1992, Thursday
When future historians try to find the exact moment at which Broadway finally rose up to grab the musical back from the British, they just may conclude that the revolution began last night.・・・■

 でも、リプリント(リバイバル、というべきかな)がアカンと言うなら"CRAZY FOR YOU"だって1930年代に上演された"Girl Crazy"のリバイバルやし、細かいことはあまり気にしないことにし、劇場の椅子で酔うことに専念した。この楽しさは、やっぱり他には代えがたかった。

 
"Fascinatn' rtythm" you got me on the go...

 気づいたことは、このミュージカルには"Nice work if you can get it"という題がついてるけど、カーテンが下りた後延々と続く音楽は、"'S wonderful"以外の何者でもない。ジュリー・ロンドンありがとう。

  'S wonderful, 's marvelous, you should care for me,
  Off way nights, 's paradice, what a wrong to see,
  You made my life so gloumolous, you can't blame me for feeling amorous,
  'S wonderful 's ma---rveluos that you should care for me...


 幕が下りたが、音楽は続いた。現地の客も、半ば踊っている人もいて。もう(死語)
 数分後に音楽も止んだ後、最前列に10人ほどの客が集まっていた。その舞台と客席の間の、幅2mほどの狭い空間の底にオーケストラピットがあるのが分かった。指揮者と目が合うや、思わず叫んでいた。
 "I'm very very very excited and satisfied with your performance! Thank you for your great musics by George Gershwin, So wonderful, so marvelous, and sooo dream-full musics!"というような内容で、さらになんか言ったのだが、もう、訳が分からない。アルコールは入っていないのに完全に酔っ払っていた。

                     ・・・・・・・・・・・・・・・・

 というように、まず音楽だけで十二分に満足した。
 キャストは余りピンとくる人はいなかった。Girls(半分ランジェリー姿などで色気を振りまく女の子達)なんか"CRAZY"なんかでも出てくるので特段びっくりしなかったし、主演のMatthew Broderickには悪いけど、加藤敬二の方がダンスも華麗(演目が違うから当たり前なんやけど)やし、シュッとしてると思った。

 でも、一人だけ魅力的な女性がいた。
 衣装や振付は、フェミニンな感じではない。パンツスタイル、ヴェスト、ベレー帽とボーイッシュである。
 この人が、歌う歌う。"Nice work if you canget it"・"Treat me rough"・"Let's Call the Whole Thing Off"・"'S Wonderful"、さらに第2幕で"But Not for Me"・"Hangin' Around With You"・"Will You Remenber me?"…
 そして、フィナーレの一つ前の(フィナーレはハッピーエンドと決まっているので、その一つ前に一回「大丈夫かしら」と落としておく)シーン。目の前5mぐらい先のオーケストラピット下手寄りから、突然この人の上半身がpop up。そこにピンスポット。

  There's saying old, Says that love is blind-
  Still we're often told, "Seek and ye shall find."
  So I'm going to seek a certain lad I've had in mind.
  Looking everywhere, haven't found him yet,
  He's the big affair I cannot forget.
  Only man I ever think of with regret.

  I'd like to add his initials to my monogram.
  Tell me, where is the shepherd for this lost lamb.

  There's a somebody I'm longing to see
  I hope that he turns out to be
  Someone who'll watch over me…


 もう彼女のくちびるの動きまで、次にくちびるがどう動くかまで、全部わかった。

 くちびるの動きを追いながら、いや、追わなくても分かる。声だけは出さないが、そのひととステージの隣で歌っているように、こちらの身体も歌っていた。身体からどーっと溢れるアドレナリンにずぶ濡れになりながら。

 もうカメラは要りませんね。ただ、後日このpop upシーンを公式ホームページ等で探したけどついに見つからなかった。この"Billie"役は2012年の開幕時はKelli O'Haraさんなので、パンフレットやCDには、今目の前にいるこの人の姿が全く無くて残念だが、それは余事であって、現に目の前で起こっていることの方が非常事態。

 月並みやけど、幸せ感一杯でしたね。Dreams came true. Broadwayまで来て良かったと、こころから思った。
 多分、一生忘れない。

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トニー賞ノミネート者2012動画




その人の名は、Jessie Mueller.
めっちゃかっこイイです!

(澁谷光基/渋谷光基/しぶやこうき)

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